高校生が横断歩道を横断中に,赤信号無視の自動車にはねられて,自賠責保険で7級4号の高次脳機能障害を残しました。
保険会社からの提示額は,損害総額が1600万円あまりでした。
裁判では,後遺障害の等級が7級か,9級かで争われましたが,裁判所から中間的な和解案が出され,損害総額は6200万円あまりとなる和解案が示されました。
高次脳機能障害は,身体の機能的な障害ではなく,些細なことで怒るようになったといった人格の変化や,二つのことを同時にできない,さっき伝えたことを覚えていないといった後遺障害です。したがって,周りの人は,事故による後遺障害があるとは思わず,そのために,周囲とのコミュニケーションがうまくとれなくなってしまうことも多いようです。
これまでは,後遺障害としての認知度は低かったように思われますが,近年は,その判断基準も整備されてきました。
高次脳機能障害が生じるのは,頭部外傷による脳の器質的損傷(脳内での出血や脳の萎縮など)が原因です。近年は,一部の医師から脳内での出血などがない,比較的小さい衝撃の事故でも高次脳機能障害が発症する(軽度外傷性脳損傷)と主張されているようですが,裁判で認められた例は少ないように思われます。
さて,この事案では,7級か9級か,高次脳機能障害の程度が問題とされました。自賠責保険では,7級と判断されていましたが,被告側からは,労災基準によれば9級が妥当との医師の意見書が提出されていました。
原告(被害者)本人に法廷に出てもらって尋問することも考えたのですが,私が面談したところでは,きちんと会話もできることから,尋問をしても,裁判官には「後遺障害の程度は軽いのではないか」との印象を与えるのではないか,と思われました。
高次脳機能障害を残した場合でも,特に若い人の場合,症状固定時(後遺障害の等級を判定する時点)よりも,その後徐々に障害の程度が改善する場合もあります。
そのようなことを考慮すると,裁判所からの和解案を受諾するのが良いのではないかと考え,依頼者にもご了解いただいた上で,和解を受諾しました。